ふたたび・『四季・ユートピアノ』

lovelytsubasa2005-04-10


幼い頃の記憶は細かいところまではあてにならない。再放送でドラマ『四季・ユートピアノ』(1980年・NHK)を確実に観た、という記憶があるのだが、ただ美しい風景と音楽のみの記憶だった。内容に関してはまったく思い出せなかった。しかしそれでも、この作品のイメージはずっと心の中に鮮明に生き続けていた。ネットで、その作品の演出を担当した佐々木昭一郎氏の情報を検索したり、テレビドラマデータベースを調べたりして詳細を知ったのが最近。そして、今日、放送ライブラリーでこの作品と再会することとなった。

フィルム作品。ドキュメント作品にみられるような独特の質感。プロの俳優をほとんど使わず、素人を起用する。手持ちカメラが描く躍動感。全篇を通して流れるマーラーの「交響曲第四番ト長調」の第一楽章と第四楽章のソプラノ。美しい、洗練された言葉たちがつむぐ主人公のモノローグ。…そして奇跡的な音と映像の融合。

幼い頃から失ってきた多くの人々を常に音とともに感じながら生きている、主人公のピアノ調律師・栄子。そしてまた、自分にとっての新たな音を探し、自らを調律していくように彼女はさすらい続けていく。死んでいった肉親たちや友人を音とともに表現していく手法に、とにかく私は限りない衝撃を覚え、そして“音を映像化する”という奇跡をこの目で体験してしまった。まさにテレビドラマの究極な形がすでに80年代初頭に出来あがっていたのだ。

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