そして『さすらい』

lovelytsubasa2005-04-11


佐々木演出ネタが続くが、この作品の海外コンクール用サイズのものを『四季・ユートピアノ』同様、放送ライブラリーで鑑賞した。知る人ぞ知る、栗田ひろみの実質的デビュー作(クレジットは栗田裕美名義)でもある。若い頃の友川かずき(美男子!)や遠藤賢司がギターを片手に歌い(雨降る日比谷野音のステージにてひとり『カレーライス』を熱唱)、サーカス団やアングラ劇団が登場したりと、寺山修司テイスト満載なのだが、ややそれよりも洗練させた感じの作風だ(上記のNHKアーカイブスのスタッフリストには載っていないが、音楽は大野雄二)。

就職した看板屋の先輩(友川かずき)に兄のイメージをだぶらせ、道で知り合った少女(栗田裕美)に妹をだぶらせる。サーカスの団員の女性に母を、そして旅の途中で出会った歌手(笠井紀美子)に姉をだぶらせる。そんな風に孤児の主人公は家族のイメージをひとつづつ作り出し、さすらい続けていく。

さりげない台詞や低位置のカメラが出演者の生命感をより浮き彫りにする。主演の安仁ひろし自身のドキュメンタリー作品風にも感じられる。やはり考えてみると『四季・ユートピアノ』の主演・中尾幸世の映し方同様、俳優の演技ではなく、主演者そのものの行動をカメラが追ったように“見せてしまう”点が佐々木昭一郎演出作品の醍醐味なのだろう。このような作品をわずかの公共料金で、タダ同然に観せてしまうという当時のNHKの制作サイドの意気込みにただただ敬服。