HIRO・ザ・ヒーロー

lovelytsubasa2005-02-13


先月末、bunkamuraシアターコクーンで上演されたNODA・MAP走れメルス〜少女の唇からはダイナマイト!』に出かけた時の事だった。ドアを開けて上演前の客席に入ろうとしたところ、チアリーダーのようなコーラスが私の耳を突き刺した。…そこには何と沖田浩之の『E気持』が大音量で流れていたのだ。思わず親衛隊の振り付けを思い出してしまった。…そして今日もラジオをつけた途端、またもや沖田浩之の『はみだしチャンピオン』が流れてきた。最近、やけに沖田の歌声を耳にする。再評価への前兆なのだろうか。

80年代男性アイドルの中では、ルックス・歌唱力ともトップクラス。デビュー当時、“正統的な郷ひろみの後継者”とも評価されていた沖田浩之だが、これといって大きく扱われないのはやはり事務所がらみのものなのだろうか。筒美京平阿木曜子、宇崎竜童、船山基紀大野克夫…と一流の作家陣に恵まれた作品は、どれをとっても名曲揃い。70年代歌謡曲のエッセンスの入り方が絶妙で、それを上回るのがタイトルのインパクトの強さ(『お前にマラリア』!『どうにかなっちゃう前奏曲』!)。遊び感覚のコピーライティングは完全に80年代のものだった。しかしここまでの好条件が揃っているのにもかかわらず、実際は大ヒットには結び付かず、本人は俳優としての仕事が多くなった。そして99年に死去。

話題になるのは今でも自殺の謎と「笑える曲としてのE気持」。そして現在まで、なかなか彼の楽曲自体の大きな再評価の機会は現れない(99年に榊ひろと氏の完璧な解説付きのベスト盤のCDが発売されたのみ。オリジナルアルバムは未CD化)。「80年代男性アイドルの楽曲に名曲はなし」などという厳しい声を聞いたりもするが、そういう人にこそ、あえて再度沖田浩之を聴き直して欲しい。70年代の匂いを奇跡的な匙加減で80年代という時代性に取り込んだ楽曲が現実に存在していたのだ。